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広島地方裁判所 昭和56年(ヨ)1号 決定

申立人 甲野太郎

右親権者 甲野春子

右代理人弁護士 沖本文明

相手方 岡村吉人

〈ほか二八名〉

右相手方ら代理人 樋口文男

主文

本件申請をいずれも却下する。

理由

一  当事者の申請の趣旨及びその理由の要旨は別紙記載のとおりである。

二  まず事実関係についてみると、疎明によれば、申立人は広島県立安西高等学校に在籍する生徒であり、相手方らは同高等学校の校長以下の教員であること、昭和五五年一一月二一日音楽の授業中申立人が音楽担当の池本教諭を殴打し傷害を負わせたこと、同日池本教諭は岡村校長の指示に従い申立人の母を呼び「家の方で反省させて下さい」と言渡し、以後申立人は授業を受けていないこと、同月二五日担任の新谷教諭が申立人の母に対し「申立人は、安西高等学校で学べないという事になりました。ついては、これから申立人がどうしていくかを相談に来ました」と告げ、申立人に対し、「就職を希望するのなら自分から退学する形の方がいいだろう」と言ったこと、同月二六日岡村校長は申立人母子に対し「就職については学校としても精一杯努力します」と伝え、その際、申立人は、自ら母親名義で退学届に署名捺印し、これを学校側に交付したこと、同年一二月一〇日申立人代理人は退学届の撤回書を学校側に提出し、同月一一日岡村校長は右撤回を承諾したが未だ退学届を返還していないこと、岡村校長は、申立人に対し退学処分を出したことはなく、相手方らは昭和五六年一月六日以降申立人に対し就職ないし夜間高校への転校の話合いをしたことはないこと、申立人としても相手方らの就職ないし夜間高校への較校のすすめに応ずる気は全くなく、安西高等学校への復学を強く求めており、岡村校長ら相手方は申立人の復学を強く拒否していることが一応認められる。

三  以上のとおり、申立人は安西高等学校に在籍中であるが、昭和五五年一一月二一日傷害事件を理由に岡村校長から「家の方で反省させて下さい」と言渡されて以後、授業を受けていない。岡村校長は申立人に対し退学処分を出したことはなく、また、退学届の撤回を認めており、申立人は前記のとおり「家の方で反省させて下さい」との言渡を受けたため授業を受けられない状態にあるものである。右の言渡は、登校して授業その他の学校施設を享受ないし利用することを禁止するものであって、その実質的内容は停学と異らず、公権力の行使に当たる行為というべきである。従って、これについては、行政事件訴訟法四四条の規定により、民事訴訟法に規定する仮処分をすることができない。授業を受けることの妨害の排除を求める申請は不適法という外ない。

相手方岡村校長は、退学届を返還していないが、その撤回を承諾しており、申立人がその返還を本訴によることなく仮処分によって求める必要性があるとの疎明はない。

相手方らが申立人に対し就職ないし夜間高校への転校を強制したことの疎明はなく、昭和五六年一月六日以降その旨の話合いをしたこともなく、また、申立人としてもそのすすめに応ずる気は全くないのであるから、その強制の排除を求める仮処分の必要があるとは認められない。

四  よって、申立人の本件申請を却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 大前和俊)

〈以下省略〉

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